2) 誰が決定者? 誰のために?
それでは、FPTの取締役がFPTS、FPTCとFPTBの株式を額面価格で購入する権利があると決定した人は誰か?そしてどの基準や割合に基づき決定したのか?誰が取締役のFPTS、FPTCとFPTBへの出資率が29%、47.7%と4.5%、会長のが4.3%、6.8%と1.1%ということを決定したか?社外株主が子会社の株式を額面価格で購入する権利がないと決定した人は誰か?などの質問に回答頂こう。
回答者は、取締役会と同様である執行役員会とする。
オンライン対話でビン氏は、FPTは子会社へ多くの資本を投入することが出来ないので、投入しないほうが良く、また投入したくないと説明した。仮にこの説明が合理的であるならば、執行役員会の3つの異なる決定を下記のように仮定して、少数株主の権利へのそれぞれの影響を分析してみよう。
1 FPTが15%の出資、他のパートナーが50%の出資、大口株主を含む幹部社員が35%の出資
2 FPTが15%の出資、他のパートナーが50%の出資、FPT幹部社員が5%の出資、大口株主と少数株主が30%の出資(割合に従う分割)
3 FPTが15%の出資、海外戦略パートナーが49%の出資、国内戦略パートナーが36%の出資
上記のそれぞれの決定から、ある期間を経た後の結果は下記の通り。
1 現在、子会社の株価が10万ドン、FPTの株価が50万ドンと仮定する。間接的に所有する15%の権利の他、大口株主は子会社へ出資する35%の権利もある。
2 現在、子会社の株価が10万ドン、FPTの株価が50万ドンと仮定する。大口株主と少数株主は子会社へ出資する30%の権利がある。
3 経験が豊富な海外戦略パートナーの参加によって、子会社の株価とFPTの株価がそれぞれ20万ドン、60万ドンと仮定する。大口株主と少数株主は子会社の資本の15%を間接的に所有することを通して同様の権利を持つ。
実際にどうして2や3の場合が選択されなかったか?当然執行役員会の個人的な権利のためだ。それでは、執行役員会の権利が株主の権利に矛盾するのか?回答には矛盾がある。どうして矛盾があるのに認められたのだろうか?この場合、執行役員会は大口株主なので、執行役員会の権利は大口株主の権利だ。少数株主は賛成しただろうか?彼らは自分の権利が毎月6,000万ドン以上の給料を得ている人の権利の下に置かれているので、当然賛成するわけがない。なのに、どうして彼らは執行役員会の変更をせず、この矛盾をただ認めざるを得なかったのか。
少数株主が沈黙していたからである。執行役員会は決定権を持つ大口株主である。そうであれば、このエージェンシー問題をどう解決するのか?
ここで、チュオン・ザ・ビン氏、ホアン・ミン・チャウ氏などの大口株主が定年となり、FPTの執行役員会に参加しなくなることを想像してみよう。彼らは毎日の企業運営活動に参加しないので、FPTの情報を十分に把握できなくなる。彼らは執行役員5名を新たに採用し、高い給料を支給する。そしてFPTが別の新子会社を設立する際に、この5名が自分達はその新子会社へ額面価格で大きな資本を出資し、逆に少数株主は出資できないということを決定したとすれば、どんなことが起きるか?当然翌日に大口株主は会議を行い、この5名を退職させることだろう。この場合には、大口株主と少数株主の利益は同一となる。
2) エージェンシー理論を克服する
エージェンシー理論の問題は、コーポレート・ガバナンスの問題である。この問題を解決する方法は数多く存在する。
FPTの場合では、大口株主の権利が、執行役員会の権利に合致するので問題が困難になっている。この両者は結託して少数株主を裏切る可能性があるためだ。FPTの株主になるために62万7,000ドン/株の価格で株を購入した株主は、株主の資格として待遇されなかったことに不満を持っているだろう。
国際基準では取締役会の中で、非執行役員と呼ばれる独立メンバーが必ずいる。通常大手会社では独立メンバーは取締役員会の3分の1を占める。この独立メンバーたちは豊富な経験を持ち、戦略について独立的な意見を出して、少数株主の権利を守るという任務を遂行する。もし執行役員会の決定が個人的な権利のためだと判断すれば、彼らはこれらの決定に反対することができる。
現在ベトナムは国際市場に参加している。多くの有名な会社は家族会社若しくは数人の出資から出発したために、大口株主が執行役員を兼務している場合が多い。少数株主の権利を守り、エージェンシー問題を封じ込めることが、投資家の証券市場に対する信頼を強化するためには緊急の課題となる。企業経営者がこのことの重要性を理解できなければ、彼らの成功は今日限りであろう。
(終)