Ernst & Young Vietnam取引アドバイザリー業務担当ディレクター、アランダ・マッコネル氏に、ベトナムのM&Aの現状についてインタビューした。その内容は次の通り(抜粋)。
企業合併買収(M&A)とは、1つの企業が別の企業の買収を通じて、両社を合算した時価総額以上の株主価値を生み出すことをいう。M&Aは大別して、戦略的M&A(業務上の相乗効果を狙うもの)、金銭的M&A(敵対的買収など、現在株価と比べて内在価値が割安な別企業を買収するもの)、多角化M&A(資本コストを引き下げるような買収)に分かれる。
M&A活動はベトナムでも過去に例は多いが、その決定に至る理由は、活況な株式市場、企業の変革活動、直接・間接投資の増加、好景気、国営企業の株式会社化など様々である。ベトナムでもM&Aは経済成長に寄与してきた。しかし、ベトナム企業の競争力を向上させるためには、法的枠組みの強化が必要となる。これとの関連では、ベトナムは比較的最近、Decree No 24/2000/ND-CPを発布し、改正ベトナム外国投資法の詳細な施行ガイドラインを公表した。
発展の過渡期にあるベトナム経済は、企業レベルと業界レベルの両方で再編を経験しており、M&A取引が増加するのも至極当然のことである。市場が成熟化するとともに、企業は新規参入よりも、既存企業を買収した方が手っ取り早いということに気付きはじめる。ベトナムにおけるM&Aの興味深い点は、最近ではベトナム系企業によるM&Aが流行っていることである。例えば、BIDV銀行が保険市場でAllianz社の持分を買収したり、Kinh Do社がTribeco社の株式35%を買い付けている。国営企業でさえ、Saigon Milk社とVinamilk社が合併に踏み切った。
ベトナムの場合、M&Aというものは、ベトナム側合弁相手を徐々に脱落させる目的を以って外資系企業が行うもの、とこれまで見られてきた。こういった部分も確かにあると思われるが、合弁企業設立時の両者間の認識のずれや、法律上の要件から生じていることが多い。長所がある反面、マイナス面も存在する。成熟した経済から程遠いベトナムでは、企業価値の評価が難しい。企業資産の現在価値を推定する手法は有効であるものの、買収先も含めた2社合算の企業価値に乗ずる相乗効果を測定するときに問題が起きやすい。経済政策や税制の政策修正、法律の改正、企業会計における不透明性、資本市場の未発達など、不透明要因が数多く存在する。
マクロ経済の観点から言えば、M&A活動は企業の自然淘汰により経済成長を刺激する。また、費用対効果が改善した分を、価格の引き下げや製品の改善という形で消費者に還元することができる。更には、国内経済の競争力がアップする。反対に、雇用の喪失につながるという短所がある。
買収候補になりやすい企業の特徴は、高い市場シェア、経営の杜撰さ、買収元企業の進出戦略や多角化戦略と合致する業務内容、常態的に割安な株価水準などである。ベトナムのおもしろいところは、国営企業の株式会社化に際し、純資産価値を株価評価に用いていることである。純資産価値という測定指標を使うと割安な評価につながることが多いため、買収候補にもなりやすくなる。相乗効果の真の価値から大幅に乖離した、不正確な株価評価は、買収後の企業の将来業績に少なからぬ影響を与える。ただ、買収後に財務内容を「反転」させたいと考えている場合には、妙味があることになる。
もっと合理的で本来あるべき姿のM&A活動を促進するには、法整備が不可欠である。ベトナム政府はそれに向けて既に着手している。それは、巨大な外国企業による小粒なベトナム系企業の乗っ取りを防ぐための法律である。例えば、規制業種に属する企業の買収を禁止するDecree No 24/ND-CP、上場企業株の保有制限に関するDecision 146/2003/QD-TTg、内国投資法などがこれに該当する。法整備はまだまだとの感も否めないが、現行ルールでは大手企業による市場の寡占に消極的である。それどころか、所属業種で既に市場を独占している非効率的な企業にとっては逆に有利な内容となっている。これに関しては、2006年7月1日に施行される競争法の動向が気になる。
理論的には、寡占または独占企業の確立につながるM&A活動が制限されるのだが、存在自体が既に同法に抵触しているベトナムの総合公社を例に取ればわかるように、同法の施行は難題が山積みと言える。ベトナム政府は「外資による侵略」という偏見をなくすとともに、法整備だけではなく、企業の収益力向上、業務管理の訓練の促進、会計基準・慣行の統一と透明性確保に向けて新たに方針を打ち出すべきである。同時に、国内資本市場の充実と更なる発展を後押ししなければならない。


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